講演要旨

講演1: A career in scientific publishing and editing

Nature Photonics アソシエートエディター
レイチェル・ペイ・チン・ウォン

写真:レイチェル・ペイ・チン・ウォン

レイチェル・ペイ・チン・ウォン

すべての論文を読み、掲載する論文を自分の責任で決めるリサーチエディター

科学系出版の役割は、科学を伝えること、ピアレビューを精査して品質を保証すること、情報に編集やグラフィックデザイン、マーケティングなどで情報の価値をさらに高めることである。Natureは1869年に世界で初めて発行された週刊の科学雑誌で、発行しているNature Publishing Group (NPG)は現在、Macmillan Publishersの科学部門で、正式には1999年に設立された。日本法人は1987 年にNature Japan 株式会社として設立され、2006年にNPG Nature Asia-Pacific と改称している。

NPGが発行するのは、Nature Research Journals 16誌(来年Nature ChemistryNature Climate Change の2誌をさらに創刊)、医学・分子生物学系のNature Review Journalsには7誌、Nature Clinical Practice 8 誌、Academic Journals約40、ほかにオンラインのニュースや求人情報、ポッドキャスト、ブログなども多くのコンテンツがあり、テーマ別のウェブサイト(Gateway)やデータベースもある。すべてにおいて、外部に学術的な編集委員会があるわけではなく、編集内容については社内の編集者が全面的に責任を負う。

NPGで働く編集者には、

  • サイエンスジャーナリストとしてトピックスを読者に合わせて、しばしば専門用語を使って正確にレポートし、フリーランサーの原稿を編集する、科学的な会議への出席や研究施設の訪問といった取材も行うニュースエディターや特派員
  • 編集者や著者や制作スタッフとともにディテールを検討し、メッセージ性をクリアにするコピーエディター
  • リサーチジャーナルのエディター(リサーチエディター)
  • フリーのサイエンスライター

という立場がある。

リサーチエディターはNature誌で30人、Nature Research journalでは各3~ 5人、Nature Review Journalでは各3人で、博士号以上のバックグラウンドを持ち、出身地もさまざま。編集部はロンドン、NY、サンフランシスコ、ボストンにある。東京のNature Photonicsの編集部では、This Issue、Research Highlights、Market analysis、Product Highlights、Lettersなど14種類の記事を扱っている。

リサーチエディターはすべての論文を読み、その中から研究の新規性や読者の興味、その分野でのインパクトなどの条件で掲載する論文を選ぶ。また、フェアで、かつ利害関係のない外部のレビューワーを選び、掲載する論文を決定する。

科学的なバックグラウンドのほかにコミュニケーションやライティング、英語の能力は不可欠

編集者には、記事執筆や著者インタビュー、校正だけでなく、編集のアイディアを出す、サイエンスコミュニケーションを推進するといった役割や責任がある。学会出席や研究室への訪問によって最新の情報を得、研究者のコミュニティーや産業界と良好な関係を保つように努めるべきで、そのためには常にイニシアティブを持ち、クリエイティブで革新的でいなければならない。

科学者としての編集者という立場では、研究の最前線で研究に没頭し、科学的思考を身につけ、科学コミュニティーのネットワークを持っていることが強みで、一方、科学者ではなくなった編集者としては、ラボの時間に縛られず、仕事のスケジュールが研究よりも短いスパンになり、幅広い人たちと新しいアイディアについて話し、論文をリジェクトされた著者からの苦情を受けるという立場になる。

 この仕事のおもしろさは、いつも知的な刺激があり、インパクトがある研究成果を探すという挑戦ができ、研究を世に出す満足感が得られることだ。

NPGでの編集者の採用にあたっては、博士号やポスドクの経験といった強力なバックグラウンド、幅広い科学的な興味、サイエンスコミュニケーションへの情熱、ライティング能力、コミュニケーション能力、流ちょうな英語といった条件が必要で、筆記試験もある。さまざまな編集の職種の募集状況は、下記のURLで確認できる。

Work at NPG: http://www.nature.com/npg/forms/03_current.jsp

また、ロンドンやNYで行われる大学院生の編集インターンシップなどの情報は、www.nature.com/npg_/workに掲載されている。

講演2: バイオベンチャー起業家が語るベンチャーが求める人材

オンコリスバイオファーマ株式会社 代表取締役社長
浦田泰生

写真:浦田泰生

浦田泰生

がんやHIV、C型肝炎に関する新薬の開発が進行中

オンコリスバイオファーマ株式会社は創薬ベンチャーで、ベンチャーキャピタルから約40億円の資金調達を行い、世界各国の大学や企業とともに研究開発を続けている。すぐれたパイプライン(新薬の候補の化合物)を大学や企業から導入して開発し、ライセンスアウトして、臨床現場に出すのが我々の仕事である。

私自身は薬学で大学院修士号を取得し、22年間製薬会社で働いた後、2004年に47歳で当社を設立した。30人の社員のうち、研究員は10名程度で、臨床試験を目的化した研究を行っている。

現在、開発しているのは、がんやHIV、C型肝炎に関する新薬である。

テロメライシン®は、アデノウイルスベクター構造のE1領域に、がん細胞に特異的に発現レベルが高い酵素テロメラーゼを構成するプロモーターを組み込んだもので、がん細胞を壊すウイルス製剤である。皮膚がんなど固形がんに注射で局所で効くようにデザインした薬で、ほとんど副作用が出ない。既存の抗がん剤が効きにくいがんにも効果があり、アメリカで臨床試験中で固形がんの20%以上の縮小や消失などの好成績が出ている。

テロメスキャン®はテロメライシン®をGFP(クラゲの発光物質)で光らせて、肉眼には見えないがんの広がりを手術中に検出するマーカーで、乳がん、肺がん、消化器がんの60例データでは、選択性と感度はほぼ100%と既存の製品よりもかなり高い。近々、目で見て判定できるキットが完成する。

耐性ウイルスにも効く抗HIV薬フェスティナビル®はアメリカで臨床試験中であり、3種類のshRNAi (ヘアピン構造の小さなRNAの働きを阻害するRNA干渉)を組み合わせたC型肝炎の薬TT-033は、来年から臨床試験が始まる予定だ。

バイオベンチャーでは前向きでビジネスセンスのある企業経験者が求められる

大企業では資金や人材が豊富で、情報も多く入ってくるが、ベンチャー企業ではコストダウンを徹底し、人材には即戦力を望んでいる。入る情報も限定的なので、コンサルタント情報を利用するほか、必要な論文は図書館でコピーするなど、自分たちの足で情報を稼ぐ。ただ、ベンチャー企業はすぐに動けるのが特徴で、物事の決定や開発のスピードが速く、ピンポイントで世界一を作るというイノベーションがミッションになっている。

バイオベンチャーを構成する人材としては、製薬企業の経験者はまれで、とくに臨床開発の経験者は少なく、ベンチャー企業間の転職者が多い。発明者は大学関係者で、研究職はポスドクなど大学在籍研究者が多く、ベンチャーキャピタル(VC)や金融機関の経験者、海外在住経験者が求められている。

基本的に仕事の内容は製薬企業と同じだが、大手製薬企業が10人でやる仕事をバイオベンチャーでは2~3人で、2年かかる仕事を1年で仕上げるイメージだ。

バイオベンチャーでは、基盤研究から臨床研究や臨床試験までの流れの中で、とくに非臨床試験、前臨床試験を担当し、また提携先の探索、マーケティング、財務管理、契約締結といったビジネスが重視される。

我々はテロメライシン®のウイルスの原理を見つけた後、3人で1年半でFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認申請をすることができた。通常では治験まで3~5年かかる仕事で、私の今までの仕事の中でも最もスピード感があった。

バイオベンチャーは運転資金、人材、経験、イノベーションに向けた発想、情熱、強烈なリーダーシップ、世界の研究者と討論できる国際感覚や英語力・中国語力、ビジネスセンスが欠かせない。

バイオベンチャーには、①業界での経験、②文系に興味を持てる理系、③ビジネス感覚を持ったサイエンティスト(PhDとMBAの両方を持つなど)、④ミクロからマクロが想像できる人(木と森を両方見分ける人)、⑤自分の研究のゴールを高いところにおける人、⑥前向きな人、⑦向こう見ずだが計算高い人、⑧文化の壁を越えるパワーを持った人、⑨バイリンガル、といった人が必要だ。バイオベンチャーの価値を高め、社会や医療を、日本を変えたいと思う人はぜひ入ってきてほしい。

講演3: バイオ産業の現状と未来

野村リサーチ・アンド・アドバイザリー株式会社 投資部 シニアマネージャー
辻本研二

写真:辻本研二

辻本研二

欧米ではバイオベンチャーは市場を形成し、多くの人が働いている

創薬ビジネスではベンチャー企業への期待が高く、ベンチャー企業が大企業に打ち勝つ要素がある。

病気や死の克服は全人類の共通課題だが、病気や原因には多様性があり、大企業がカバーしきれない領域がある。ニッチのようでも医薬品は全世界に売れるため、数百億円のマーケットになる。

医薬品の研究開発には必ず成功する道はなく、お金と人を投入しても成功確率が飛躍的に上がるわけではない。ひらめきや思考の柔軟性、やってみようという勇気が必要で、ベンチャー企業が活躍できる。成果は特許で守られ、後からお金が入ってくる。とくにバイオ分野では1製品に入っている特許の数が少なく、価値が高いのが特徴だ。

2007年に世界で売れた薬品のトップ10には、自己免疫疾患の薬や抗がん剤が多く、これらの病気は多様性があって、ベンチャー企業が活躍できるフィールドともいえそうだ。

バイオベンチャーはアメリカでは約1500社あり、約20万人が働き、約400社が上場していて、約7兆円の市場規模となっている。ヨーロッパでは約100社が約10万人の従業員を擁し、2兆円近くの売り上げを上げている。7兆円市場といえば日本のコンビニ業界と同規模、1~2兆円市場は国内のパソコンと同規模で、海外ではバイオベンチャーが市場として成り立っている。

累積損益を増やしながらも、ある時期にライセンス契約や上場で利益を得るバイオベンチャー

バイオベンチャーはパイプラインというインプットを得て、付加価値をつけ、アウトプットする。アウトプットといっても薬を直接患者さんに届けるのは製薬会社が担当することが多く、バリューチェーンを製薬会社と連結するのが役割だ。とくに臨床試験の第1相や第2相までの間にヒトで安全に使えることを証明するproof of concept(POC:概念実証)が価値の創造で、ここでライセンス契約をして収益を得る。

バイオベンチャーに必要なのは、人、物、お金、情報で、一番手に入れにくいのは資金である。累積損益をシミュレーションすると、会社設立から研究、臨床開発に至るまで、一切収益が発生せずに赤字が積み上がり、最初のPOCで数十億円がまず入る。一方、その経過の間に次世代の製品開発も必要で、なかなか黒字にはならない。それでも続けていると、最初の製品、次の製品で黒字転換するときが来る。

このようにバイオベンチャーでは長期間にわたって累積損失が出るため、資金調達が必要になるのだが、投資家などから資金を集められるのは上場後で、未上場の段階ではベンチャーキャピタルが投資することになる。ベンチャーキャピタルはハイリターンが達成できるバイオベンチャーにしか投資しない。また、上場はベンチャーキャピタルの資金調達手段でもある。未上場株の譲渡は世界各国で規制が強く、また値付けが難しいため、上場して初めて株による収益が期待できる。

日本では2007年に586社のバイオベンチャーがあり、上場したのは24社で、徐々に増えてきた。ただ、株式投資の低迷で全産業で上場件数は極端に減少している。そのため資金が集まらず、政府系補助金やJSTNEDOなどの研究費の受託、企業間の提携、海外からの資金調達が考えられる。

一方で、ベンチャー企業が成長しているのも確かで、臨床開発のステージに進んだ開発候補品が増え、ライセンス契約も増えている。この成長が続けば資金調達もやがて楽になるだろう。投資家に魅力的かどうかは、リスクを分析して見極めたうえで、対策を練り、勇気やモチベーションを持って踏みだそうと判断していることが鍵になる。

バイオベンチャーを支えるベンチャーキャピタルの人材には、研究者としての経験のほか、同じ目線で仕事ができ、資金調達のシンジケート作る経験やコミュニケーション能力が求められる。バイオベンチャーやベンチャーキャピタルの世界にぜひ飛び込んでいただきたい。

講演4: 多角的なキャリアパスについて

株式会社リバネス 代表取締役
丸 幸弘

写真:丸 幸弘

丸 幸弘

理工系大学生・大学院生15人が先端科学教育、人材育成の会社を企業

私は、東京薬科大学で環境生命科学科を卒業後、2006年3月に東京大学大学院農学生命科学研究科で博士号(農学)を取得した。現在、株式会社リバネス代表取締役を務めると同時に、東京大学大学院バイオ知財コース客員連携研究員として、教育・研究にも携わっている。

新しい何かを作ったり、発見したり、見たり聞いたりするのが好きで、研究を思う存分続けるには、自分で研究所を作るほうがいいと考えていた。

2001年、就職氷河期の時期で、理工系大学生・大学院生15人で語り合っていたときに、「理科離れが問題になっており、研究所を作っても研究者がいないと意味がない。先端科学教育、人材育成が大切」という話になった。そこで、2002年に有限会社リバネスを設立、2004年に株式会社にした。社員33人は全員博士号を持っている。

私自身は会社のスタートアップが大好きで、趣味のバンド活動を生かせるレコード会社を含め、6社を立ち上げ、機能性食品や核酸医薬の研究開発にも関わっている。

人材育成モデルやインターンシップでコミュニケーション能力をアップ

リバネスの企業理念は「科学技術の発展と地球貢献を実現する」というもので、地球貢献とは、人々の幸福や健康だけでなく、地球全体の「調和」を意味する。全ての人々が科学技術の恩恵を受けることができる社会を構築し、人類の幸福と地球全体の「調和」を目指している。

先端科学、とくバイオテクノロジー系の研究・技術に対する一般的なイメージは、「危険な実験?」「本当に使える技術?」「倫理的に大丈夫?」といったもので、最先端の技術が市民に浸透しにくく、知識・認知度格差は広がる一方だ。また、次の技術が生まれるのも速く、そのギャップを埋めていく仕事が21世紀の産業になると考えた。

当初、一般向けに500円で講演会を開いたところ、人が集まらなかった。そこで、学校の授業に参画することに決めた。大学のネットワークを生かし、今では、年間100回くらい出前授業を行っている。また、高校の授業で科学雑誌“someone”を7万部無料で配布している。

研究者が科学を伝えると、正確に最新の情報を十分に伝えられるというメリットがあり、ニーズもある。ただ、聞き手に伝わる話し方ができない、企画を作るなどの時間がないという面もあり、人材育成モデルを作って、プレゼンのスキルを上げるようにしたのが、学校で授業をうまくできるようになった理由である。

また、多様なキャリアを生み出す一歩として、年間1200万円を投資し、週末に参加できるインターンシップ制度を設けた。最終審査は学校での授業で行う。こうして最先端の科学を伝えることで、学校での科学の関心が高くなり、また当社に発注が入る。

このようなスキルアップは、申請書の書き方や面接などに役立つし、次世代の育成にもなる。

専門知識とコミュニケーションスキルを持つと活躍の場が広がる

学生時代には、理工系で経営を学べる仕組みと場所を作ろうと、日本で初めて学生ビジネス研究会(BLS)を立ち上げた。BLSを母体に会社を立ち上げたが、失敗した経験がある。会社作るのは簡単だが、続けるのは難しい。研究者仲間同士で研究のビジネス化を考えるトレーニングをするのが大事だと思う。

経団連の調査では、企業は博士号取得者を魅力的だと捉えているが、コミュニケーション能力や協調性、業務遂行能力がないと見ている。

プロのスポーツ選手と同じで、研究者として活躍できるのは、ほんの一握りであり、そうならなかった人たちはコミュニケーション能力やマネジメント能力を高め、プロとしてサポートに回るべきだろう。

当社のインターン経験者は約60人で、研究職だけでなく、商社、コンサルタント、教師や塾講師、玩具の企画職、弁理士事務所、バイオベンチャー、MRなど多彩な職種に就いている。このように先端科学の専門知識とコミュニケーションスキルを同時に持つと、多様な活躍の場が存在する。

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