認識されていない心筋梗塞のリスクがある患者の転帰を心臓MRIによって予測することは可能か?
原論文
Kwong RY et al. (2006) Impact of unrecognized myocardial scar detected by cardiac magnetic resonance imaging on event-free survival in patients presenting with signs or symptoms of coronary artery disease. Circulation 113: 2733–2743
PRACTICE POINT(診療のポイント)
MIの既往を示唆する症状または徴候は認められるが、酵素と心電図の結果が不明確な患者においては、MIの既往を確認または否定するのにLGEが有用となる可能性がある。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
心筋梗塞(MI)は大部分が臨床的に認識されないまま進行することが疫学的研究で証明されており、この問題は心電図上のQ波の感度が低いことによって悪化する可能性がある。造影心臓MRI(CMR)では、MIに起因する心筋損傷を心電図検査より高い感度で検出することが可能である。しかし、MIの既往がない患者におけるCMRの予後因子としての有意性は不明である。
OBJECTIVES(目的)
冠動脈疾患(CAD)が臨床的に疑われる患者を対象に、CMRによる後期ガドリニウム造影(LGE)イメージングの予後因子としての有意性を検討すること。
DESIGN(デザイン)
冠動脈疾患の徴候または症状が認められ臨床評価のためにCMRを受けた連続した患者を対象に研究を行った。MIの既往がある患者、心筋炎、浸潤性心筋症、心膜疾患が疑われるまたは確定した患者、不安定狭心症がある患者、血行動態の不安定な患者、NYHA分類IV度の患者は本研究から除外した。
INTERVENTION(介入)
対象全例に、定常状態自由歳差運動(steady-state free-precession)法によるシネCMRを施行して左室(LV)機能を評価するとともに、LGEイメージング(ガドリニウムDTPAの累積投与量0.15mmol/kg)により心筋瘢痕を検出した。CMR施行から平均で8.2日後に安静時12誘導心電図も測定した。CMR施行後6カ月以上の間、電話での聞き取り、医師からの連絡、または通院記録によって患者を追跡調査した。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
主要評価項目は、心臓死、新たな急性MI、入院が必要な不安定狭心症または心不全、植込み型除細動器の放電が必要な心室性不整脈を含む主要有害心イベント(MACE)の発生とした。
RESULTS(結果)
中央値16カ月(範囲6~42カ月)の追跡調査後、患者31例(対象コホート全体[195例]の16%)でMACE(心臓死17例を含む)が発生した。一般的な臨床的、血管造影的、機能的な予後予測因子と比較して、CMRによるLGEはMACEのもっとも強力な予測因子であった(ハザード比10.9、P<0.0001)。心筋瘢痕が最小(LGEが平均左室心筋重量の2%未満)の患者群では、CMR上LGEが認められなかった患者群と比べて、MACEのリスクが7倍以上高いという『閾値効果』も認められた(P=0.0002)。多変量解析において、MACEおよび心臓死のモデルにLGEを追加すると、各モデルの予後予測における有意性は、その他の変数によって得られるモデルより強くなった。LGEは、最適なすべてのモデルのなかで、変わらずMACEと心臓死に対するもっとも有意な予測因子であった(それぞれ補正ハザード比5.98、95%CI 2.68~13.3および補正ハザード比9.43、95%CI 3.15~28.3、P<0.0001)。
CONCLUSION(結論)
MIの既往はないが、冠動脈疾患を示唆する症状または徴候が認められる患者では、CMRによるLGEが、主要有害心イベントおよび心臓死と強い相関を示し、一般的な臨床予測因子より有意な予後指標となる。
COMMENTARY(解説)
Robert M Judd and Raymond J Kim
Kwongらが用いたLGE法は、近年数多くの研究の主題となっており、そのような研究の多くは、虚血性心筋症と非虚血性心筋症の鑑別や、非貫壁性梗塞の検出などの臨床的問題を扱っている1。しかしKwongらの論文は、われわれが知る限り、患者転帰の予測におけるLGEの役割を検討したもっとも大規模かつもっとも系統的な研究である。この偉大な貢献によって、認識されていないMIの有病率と自然経過について根本的な疑問が生じる。
フラミンガム研究では、連続的な年2回の心電図検査を受けている患者において、過去2年間は治療が必要なかったにもかかわらず、新たなQ波が認められる場合があることが証明された2。Q波の存在は、認識されていないMIが発生したことを示す強力な証拠であった。認識されていないMIはその後、大きな臨床的・科学的関心の対象となった。フラミンガム研究による重要な発見の1つは、MIが認識されなかった患者とMIが認識された患者の予後は同等であるという事実であり、感度と特異度の高いMI検出法の必要性が明らかにされた。
それから20年が経過した現在、MIの検出に関するコンセンサス声明では、3つの原則アプローチ―血清酵素マーカー、心電図基準、急性MIに一致する症状―に焦点が当てられている3。しかし、認識されていないMIの問題は急性ではない状態にのみ生じることから、血清マーカー、ST上昇、急性症状は臨床的に有用ではないということになる。したがって、認識されていないMIの検出は現在、心電図上のQ波の存在のみに基づいている。これをもとに治癒したMIを定義するやり方は、その名が示すとおり非Q波MIがすべて見逃されてしまう点を主として、重大な限界がいくつかあることが広く認識されている。現在米国では、認識されていないMIの50%以上が非Q波性である4ことから、認識されていないMIの50%以上は検出されないままとなることが示唆される。
フラミンガム研究のデータでは、55~64歳の男性の2.82%がQ波によって検出可能な認識されていないMIを有することが示されている2。先行するいくつかの研究では、LGEのMI検出感度はQ波の感度よりはるかに高く、血清酵素の感度と同等であることが示されている1。この同等性はおそらく、血清酵素とLGEがともに、心電図とは異なり、心筋細胞死に直接的に関連していることが原因である。Kwongらの研究では、LGEが認められた患者44例中7例のみでQ波が検出可能であった。したがって55~64歳男性の一般集団における認識されていないMIの真の有病率は、5~10%にも上る可能性がある。LGE(平均左室心筋重量の2%未満)によって非常に小さな心筋瘢痕が認められた患者でさえ、主要有害心イベントは7倍以上増加していたというKwongらの結果から、この可能性への懸念は高まる。
初回MI患者全体のほぼ50%は病院到着前に死亡する5が、これらは本当に初回MIなのであろうか? これらの一見したところ健康な人びとの一部を数カ月あるいは数年前にスキャンしていれば、認識されていないMIの証拠となるLGE所見が認められたであろうか? LGEは陽性であるが酵素と心電図は陰性で症状のない人びとには、MIが認識された患者にすでに広く使用されている治療法が有益となるであろうか? Kwongらの研究は、他の重要な論文と同様に、冠動脈疾患の自然経過に関する現代の見方が根本的に誤っている可能性を高めている。今後さらに研究を行い、認識されていないMIの真の有病率を確認するとともに、それに対する最適な治療法を検討する必要がある。
References
- Kim RJ et al. (2006) Assessment of myocardial viability by contrast enhancement. In MRI and CT of the Cardiovascular System, edn 2 233–262 (Eds Higgins CB and de Roos A) Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins
- Kannel WB and Abbott RD (1984) Incidence and prognosis of unrecognized myocardial infarction. N Engl J Med 311: 1144–1147 | PubMed | ChemPort |
- The Joint European Society of Cardiology/American College of Cardiology Committee (2000) Myocardial infarction redefined—a consensus document of the Joint European Society of Cardiology/American College of Cardiology Committee for the redefinition of myocardial infarction. Eur Heart J 21: 1502–1513
- Furman MI et al. (2001) Twenty-two year (1975–1997) trends in the incidence, in-hospital and long-term case fatality rates from intitial Q-wave and non-Q-wave myocardial infarction: a multi-hospital, community-wide perspective. J Am Coll Cardiol 37: 1571–1580 | Article | PubMed |
- Thom T et al. (2006) Heart Disease and Stroke Statistics—2006 update: a report from the American Heart Association Statistics Committee and Stroke Statistics Subcommittee. Circulation 113: e85–e151 | Article | PubMed |
